なんとなく、私は毎年、その年の「テーマ」というのを決めています。それが必ずしも1月1日に決まるわけではないのですが、なんとなく、テーマが決まってくるのです。
昨年は、ディセンシーでありました。内田樹さんの言うところのディセンシー、大江健三郎さんも言っています。少し、大江さんの本の中から引用してみましょうか。
decentというのはある人間の心の態度として、その内面に生きている品の良さということでもあれば、他の人間がかれを見て受けとめる好ましい品の良さということでもあろう。まあその人の、他の人間に対する寛容さをもあらわすだろう。人々と共同の場にいる際の、その場にしっくりしている感じの良さでもあるだろう。(『ゆるやかな家族』講談社、1996年、167頁)
実体としてdecentがあるのではなく、場にふさわしい振る舞いができること、それを含みこんだ品の良さというものを、私はdecentという言葉から想像します。
内田樹さんは、こんなことをブログに書かれています。
「自分探し」とか「自己決定・自己責任」とか「自分らしく生きる」とかいう頭の悪いワーディングに辟易としてきたからかも知れない。
とにかく、「耳を傾ける」「受け容れる」「敬意を払う」「節度をたもつ」というようなふるまいに知的リソースを優先的に備給する学生たちがちらほらと出現してきたのである。
(略)
「他者へのディセンシー」は生存戦略上もっともすぐれたもののひとつである。
ここまで私は、実利的には語りませんが、けれども、実利的な尺度で生きている方々に対しては、実利的なものとして、ディセンシーを語ります。そうすることで、ミイラ取りが……ではありませんが、実利的な追求のためにディセンシーを追求し始めた方が、ディセンシーの追求の過程で、実利的なことなんてどうでもいいや、と思うようになったら面白いかな、と思ったりして。内田さん自身も、そういう戦略的な思いもあって書いているんじゃないかしら? と思う節もあります。
そういうわけで、昨年のテーマは、ディセンシーでした。
その前年は、「慎み深さ・シャイネス」がテーマでした。
レヴィナスを強く読みたいと思い(今でも思っていますが)、かじっておりました。
現前することがこのように慎み深き不在でもあるような〈他人〉、それが〈女性〉である。
との一節が『全体性と無限』の中にあります。
思い起こせば当時、強く自己主張する方々の中で辟易していました。他者に対して、糾弾をすることが日常になっている世界。糾弾される側になってしまった方々にも事情はあるし、そう思うと、糾弾している方々を見ているのが嫌になってしまったのです。
そんな形で自己主張をするのではなく、慎み深くいようと決意したのでありました。
そうはいっても、最初は私だって、「陽の当たる場所」にいたい、という気持ちがなかったわけではありません。その過程で、自分を支えるために、内田樹さんの『レヴィナスと愛の現象学』を何度も読みました。カズヲ君、レヴィナスは私にとって、研究の対象というよりはむしろ、人生の慰めであるんですよ。
そうやってきつい状態を感受しているときに、かつての知人と再会しました。以前はそれほど深く関わってはいなかったのですが、ある局面で、通じるものを感じ、話してみると、同じ哲学を感じました。表面上は水と油なのに、通じるものがあるように思うのです。私の思い込みかな。
その前々年(その前年は無し)は、「大人になること」でした。
クリアーカットな単純な子どもの思考ではなくて、不条理や矛盾を、そのまま受けとめるということ、その中で生きていくということ、そんな大人の思考を自分のものにしたいと思いました。同じく内田樹さんの『寝ながら学べる構造主義』のラカンの部分のこぶとり爺さんの説話の部分がきっかけです。
こうして振り返ってみると、いかに内田樹さんの影響を受けているか(汗
今年は、「集中すること」でいってみたいと思います。
昨年から、私はいつも学生さんにそういうことを言っているのですが、実は、私自身も、それほどうまくできているわけではありません。どんどん仕事が増え、それほどやりたくもない仕事も、いろいろな事情で、切り捨てることができなでいます。これでは仕事は進みません。
もし、私に、普通の人の1.5倍の能力があったとしても、3つのことをしてしまったら、一つにかけるリソースは、0.5。これでは、一つのことを普通にやっている人の1にはかないません。
いわんや、私には、そもそも、そんな能力があるとは思えませんから、一つのことに集中するに限るのです。
私の様に能力が無い人だって、一つのことだけをやったら、人並みくらいにはなれるかもしれません。
そういうわけで、今年は仕事を整理し、一つのテーマに集中し、その中で細分化をして、細かな割れ目を入れていって、質の高い仕事をしようと思います。そのためには、その周辺の仕事は人に任せることが必要になります。
これでいいですよね。
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